考え中

まったく公共性のない備忘録

Tuntematon mestari (One Last Deal)

邦題:ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

www.imdb.com

 

ヘルシンキで美術商をしながら生きてきた老人のOne Last Deal(最後の取引き)を描いた映画。

オークション場面、店の店内と店頭での客とのやり取り、娘家族(といっても甥と2人だけ)との会話、商売仲間、金策、そういう場面をつないで「最後の取引き」までを見せるストーリー重視、会話重視の作りになっている。もちろんストーリーを描きたいわけではない。

オラヴィの直感と調査で、オークションにかかった署名のない絵は、ロシアの画家レーピンの作品だということが次第に明らかになる。

その取引きを手伝うことになる素行の悪い甥オットーと、ぜんぜん負けていない爺さんオラヴィ。甥オットーは仕事を通して美術商としてのオラヴィの生き方を目の当たりにする。それがこのお話の中で実を結んだもののひとつと言える。

もうひとつ報いとして、レーピンの作品の価値が市場価値にとどまらず、レーピンの人柄や姿勢を物語るものだったということがある。この聖なる姿勢にオラヴィの生き方が重なり、商売の成否とは次元の異なる歓びを見出すことができる作りになっている。

とはいうものの、オラヴィはクソジジイだし、娘の身になって考えると本当に憎める。いろいろな価値観が交錯する:家族、お金、職人的な才能、人間性への尊厳・・・何を優先すれば正解なのか、それはまったく分からない。ひとつがうまく行けば他は捨てることになる、そういうどうしようもない厳しさもこの映画は描いている。