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まったく公共性のない備忘録

La Famille Bélier/CODA(コーダあいのうた)

フランス・ベルギー映画La Famille Bélier」(ベリエ一家)、邦題『エール!』のアメリカでのリメイク版がCODA(コーダあいのうた)である。

 

「エール!」は主人公のポーラ・ベリエが少女から大人になる揺れ動く時代を、家族と自分という対立から描くが、そこはフランス映画なので、大人になる戸惑いを、爽やかというより包み隠さず描いている。性的な下ネタや女性になることの肉体的な変化を明示的に扱う。CODAは、青春の爽やかな感じも出しているのだが、フランス版の性的めざめに関するモチーフをそのまま使って「?」となる箇所もある。その辺は、CODAを見たあとでエール!を見て、ああそういうことだったか、と納得した。

 

コメディなので下ネタや性的描写で笑いを取るところもあるけれど、とはいえ「エール!」のポーラが自分の歌の才能に自ら戸惑う一瞬のシーンは、大人の女性への一歩を踏み出せずに混迷する大島弓子なんかを思い出させるようなみずみずしい良いシーンである。

 

家族愛もそのテーマである。

最近、ヤングケアラー問題がようやく議論されるようになっているが、映画では両親と兄弟が聴覚障害者で、エール!では農家、CODAでは漁師が家業である。エール!のポーラ、CODAのルビーは家族の中で1人健常者で、生まれてから17年、ずっと手話通訳で一家を支えてきた。

 

歌を歌いたい、歌の勉強をしたいという気持ちが、一家におけるルビー/ポーラの立場を危うくする。家族を愛しているし、自分はなくてはならない存在だけれど、家を出て歌の道に進むことを家族は反対するだろう。その葛藤は、ルビー/ポーラが大人になって自分の人生を生きる時期へと進むにつれて大きくなる。

 

歌われる曲目は、アメリカ版は変えてある。フランス版はかなり「愛」の歌を採用している。選曲は心の描写でもあるので大事だ。歌はみんな上手で、映画の見どころでもある。

両版とも役者はかなりの好演で、特にアメリカリメイク版はストーリーより演技が見どころである。アメリカ版は家族愛部分はいいけれどびっくりするような展開ではないし、少女の成長という点は詰めが甘い、というかハイスクール恋愛物のパターンに入ってしまっている。フランス版は成長物語としての一貫性があるのでストーリーも面白い。