開幕初日の開館時間に行こうと思っていたが、自分の気合いにちょっと引いたので、少し遅れて午後に行った。行くなら(大人が行くなら)、児童生徒の夏休みが始まる前が狙い目だ。エッシャーはぜったい子どもも大好きなやつ(子どものためのギャラリーツアー日が設定されているので是非)。
作風の変遷は各セクションのタイトルがあると分かりやすいと思うので引用。
1章 デビューとイタリア
2章 テセレーション(敷き詰め)
3章 メタモルフォーゼ
4章 空間の構造
6章 依頼を受けて作成した作品
オランダ生まれでイタリアに魅せられる芸術家は多いがエッシャーもそうだったようだ。イタリア好きというのが騙し絵と言われる代表的な作品の作風から伝わりにくいエッシャーだが、初期作品には〈夜のローマ〉や〈システィーナ礼拝堂〉、さらにイタリア南部の各地がテーマとなる作品が多くある。建築物そのものの構造の切り取り方の妙や、建築が折り重なる建築群の見え方が興味を引いていた様子がわかる。
イタリアからスペインへ旅行に出てアルハンブラ宮殿を見たことがきっかけとなり、画面をパターンで埋め尽くすテセレーション(敷き詰め)の時期に入る。正則分割という技法で、ある図形を反転させたり回転させたりして組み合わせて増殖させていく。馬と鳥、魚とカエルなどの組み合わせで、平面を遊ぶトリックの始まりである。爬虫類好きも見て取れる。
次第に、正則分割はメタモルフォーゼ(変遷)へと進化して、例えば、馬と鳥の組み合わせや分割ではなく、馬から鳥への変身というようなテーマに取り組むようになる。同時に、錯視を意図した作品が出てくる。鏡による逆さまや、地上の農作地の区画が空を飛ぶと鳥の形に変遷していく、といった作品である。
会場では、動画化してそのメタモルフォーゼを動きとして見ることができるようにしている。面白かった。
平面への挑戦の別の進化は、有限の紙の中に「無限」を閉じ込める方法の模索である。平面に球体を描き、球体の端の端の極限まで終わらない像を書き込んでいる。空間に関する理論的な追求や、妥協のない手仕事がアツい。
エッシャーと言えば騙し絵の印象が強いが、平面に立体を描く方法を操作することで矛盾が生まれる。絵が下手な人が立方体を描こうとすると矛盾が起こることがあるが、パラドックスは簡単に生じる。エッシャーはさらに鑑賞者側の道理を逆手に取って、空間に矛盾を作り、板挟みになった歪み部分をうまく処理してパラドックスを操った。循環する画面も作った。
最後の「依頼された」作品は、蔵書票やグリーティングカードなど、画面のデザイン性・装飾性の高さによるところが大きい。それはエッシャー本人の意図ではないかもしれないが、しかし楽しめる。
展示の合間に拡大画像があって助かるし楽しい。
写真の上下も分からなくなる(これ↓合ってる?)。
<映画の感想>
エッシャーの探求の計り知れなさが分かる映画で、展覧会を見た感想に書き込めないことを書いてある。