考え中

まったく公共性のない備忘録

流出する日本人

一般書を読んだら読書記録を、という方針なので、GW中ぶらぶらと読んでいたものを記録する。

 

流出する日本人―海外移住の光と影
大石奈々 著

中公新書 2794

 

目次
序章  日本人の海外移住の歴史
第1章 日本の人口減少と世界の移民政策―移住をめぐる構造変化
第2章 若者たちの海外移住―ワーキングホリデーの光と影
第3章 「自己実現」と「生きやすさ」を求めて
第4章 日本が抱えるリスクと不確実性
第5章 移住先の選択―文化から税制まで
第6章 海外移住の影―永住のハードルと移住後のリスク
第7章 日本の未来と政策の選択肢―誰もが住み続けたい日本へ

海外移住の諸相を、歴史、文化、社会、政策、経済などの面から多角的に掘り下げている。データとインタビューの客観情報から考察しているので、海外移住ノウハウ的な本ではない。

 

移住と言っても、そのときの日本の文化的、経済的、政治的、国際的要因によってずいぶん性格が異なることは序章ですぐに分かる。日本という国を通時的に見る場合、こういう視点で考えたことがなかったので、いろいろ考えが整理できた。

 

どういう層が移住するのかという点も、若者なのか、引退後の世代なのか、女性なのか、それぞれの移住の要因や背景は決して意外な情報ではなく確かにそうだと納得するのであるが、日本という国が現在どういう状況にあるのか、移住という現象に反映される日本という国を、こうして改めて見る思いだった。

 

目的がはっきりしている経済や教育などの移住から、日本から抜け出したいといった精神面の要因による移住まで、背景も様々である。駐在家族のような自分の意思ではない移住もある。それでも移住先での生活基盤が築かれ始めると、移住者にとって不公平な政策や制度だったり、制度に穴があったりという問題もある。

翻って日本に住むということはどういうことなのか、どういう利益・不利益があり、何を我慢して何を実現させることができるのか、そういう点にも目を開かれる。

 

ワーホリについては、一部テレビ報道で、豪州でかなり稼げるなどの印象を作ってしまっていたが、実際には(当然であるが)そんなわけないばかりか、うまい話に引っかかるケースもあることも、根拠とともに示されている。

 

少々悲観的に分析されている部分もあるが、移住とはそもそもリスクを伴うものである。それでも移住をするならば、その動機は決して小さいものではない。