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まったく公共性のない備忘録

〈若きポーランド〉-色彩と魂の詩うた 1890-1918

1875年に”地図から消え”てから123年間、独立を取り戻すまでのポーランドの人々のアイデンティティを支えたのは、美術作品やフォークロアデザインを含む文化だった。作品から、文化、宗教、民族、政治と、様々な側面を感じることができる。古都クラクフを中心に活動したアーティストたちが、どのような目的意識や精神を持って作品づくりをしていたかが、カラフルに理解できる展覧会だった。

 

技術的にはかなり高度で、しかも当時のヨーロッパの流れに敏感な作風を取り入れている。印象派象徴主義ジャポニズム、その後はさらにイギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動の影響やアールヌーボーなど、ヨーロッパのいろいろな派や主義の影響が網羅的といってもよいぐらいに見られる。

技術だけが空虚に使われることなく、アイデンティティナショナリズムを強く暗示する精神性によって作品が何層にも解釈され、多くを訴えてくるところが特徴的である。

 

ポーランドのこの時期の画家たちが、このような作品を残していることも知らなかったし、ポーランドの文化や民話や宗教への解像度が低いしで、展示の前半ぐらいまでは、小さく書かれた解説を頼りにとても苦労しながら鑑賞した。音声ガイド使えばよかったと思った。

そもそも、画家の名前に馴染みがない上に、カタカナの噛みそうなメホッフェルだとか、ヴィスピャンスキだとか、マルチェフスキだとか、スタニスワフスキだとかいう音の連続を短期記憶にぶち込みながら見る必要があって、負荷が高かった。(Jan Stanislawskiのような表記のほうが飲み込みやすいかも)。

 

そのマルチェフスキ(合ってる?)は、自然描写のような画面のなかに唐突に寓意的なものを配置する不思議な画風が持ち味で、描かれる架空の存在が象徴するものを読み取ったりする見方になる。

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スタニスワフスキの作品は、印象派っぽい筆や色の使い方でありながら、パリ郊外の景色ではなく、印象的な背の高い木と、モネの水面のような水を組み合わせた大胆な画面を作っている。

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クシジャノフスキの海の絵は特に新鮮だった。自然光を書きつつ、写実というよりデザイン性が優先され、画面の大胆な構成力や、内面描写とも言える雲の形など、とても魅力的で絵の前を立ち去り難かった。

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少しづつ、時間をかけて、驚きと新鮮さで高揚しながら鑑賞を進めていくと、ジャポニズムなど理解しやすい画風も出てきて、理解度は上がっていった。浮世絵も展示されていて、比べながら鑑賞できる。

 

ルシュシツの雪の森の中の湖の絵なんかは、もうデザイン優先になっていて、2本の梅の木や、その両脇から枝垂れる白い枝の造形など、左右対称に近い画面構成になっていてジャポニズムだけではなくアールヌーボー作品といってもよいものだった。深い暗い湖を囲む白銀の世界は美しく、静かで、なぜか温かかった。

最後の方はオルガ・ボズナンスカという覚えやすい名前の画家の人物像が多く展示されていて、怜悧で憂いある強さを堪能した。

人物の背景はシーレのような白っぽい色で塗りつぶされていることが多いが、ジャポニズムの影響も強くて窓の外の風景がむしろ主題となる風景画もある。

人物は目に特にこだわっているようで、その視線は横に流れていても、まっすぐに見つめていても、どれも意味ありげだ。「フローリスト」という窓の外の景色を描いた作品の前景に3人の女の子が作業する様子を逆光で見せる作品がある。3人とも目を伏せて作業をしているところが印象的である。しかも窓際の机を挟んで座る2人はほぼ重なっていて、その人物の配置に強く引き込まれる。

 

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絵だけではなく、家具や織物、舞台衣装のデザインなども展示されている。この時期、若い画家たちが熱意を持って技術を身に着け、その技を駆使して祖国を表現したことや、柔軟に流行りの画風や技法を吸収しながら、伝統の意匠と融合させていったことが分かる展示だった。